この記事は、近年増加しているベトナムの労働紛争の傾向と主な原因を簡潔にまとめています。また、違法な契約解除時の企業負担となる賠償の目安や、労働法違反を防ぐための実務的な対策について解説しています。
企業様がベトナムにおける労働法違反を回避するために
A.労働上の紛争
ベトナムでは、労働者と使用者との間で発生する労働紛争が年々増加しています。最高裁判所が公表した代表的な33件の判例を分析すると、訴訟金額が数百万円規模に及ぶケースも少なくありません。これらの判例において、特に多く見られた紛争内容は以下のとおりです。
a.労働契約の解除に関する紛争(20/33件)
b.解雇・懲戒理由に関する紛争(4/33件)
c.社会保険・年金・給与・退職手当に関する紛争(9/33件)
B.紛争の主な原因
労働紛争が発生する主な原因は、以下の点に集約されます。
1.労働契約解除時の事前通知義務違反
ベトナム労働法では、労働契約を解除する際の事前通知期間について、以下のように規定されています。
|
労働契約形態 |
事前通知期間 |
|---|---|
|
12か月以下の契約 |
3日前 |
|
12~36か月の有期契約 |
30日 |
|
無期限契約 |
45日 |
|
特定業務契約 |
個別規定による |
実務上、使用者が口頭で事前通知を行ったものの、書面を残していなかったため、後日、労働者から訴訟を提起されるケースが見受けられます。また、労使関係が悪化した結果、事前通知を行わず、その場で即時解雇するケースも少なくありません。
2.解雇理由の不適切さ
ベトナム労働法では、労働者が正当な理由なく5日間無断欠勤した場合、解雇が認められるとされています。
しかし実務上は、労働者側が当該解雇理由を不当であると主張し、紛争に発展するケースが多く見受けられます。
例えば、ある医療機関で勤務していた看護師が、子どもの病気を理由に欠勤し、SMSで事前連絡を行ったにもかかわらず、会社側がこれを正当な理由として認めず、解雇した事例があります。
この場合、労働者から「違法な一方的労働契約解除」として訴訟を提起され、使用者側に不利な判決が下されるケースが多く見られます。
C.「違法」と判断された場合の賠償額
多くの企業は、訴訟を提起されると多額の賠償を恐れる傾向がありますが、ベトナムの裁判所は、証拠、当事者双方の主張・意見を慎重に検討したうえで判決を下します。そのため、請求額が高額であっても、実際の認定額は比較的抑えられるケースもあります。では、「違法な労働契約解除」と判断された場合、一般的に以下の賠償義務が発生します。
|
項目 |
金額の目安 |
|---|---|
|
賠償金 |
最低2か月分の給与 |
|
事前通知義務違反分の給与 |
約1か月分 |
|
退職手当 |
約2か月分 (失業保険加入期間を除く) |
|
その他 |
事案により追加賠償あり |
|
合計 |
5か月分以上 |
つまり、訴訟となった場合、当該従業員の月給数か月分に相当する金額が企業側の負担となる可能性があります。実務上は、請求金額が月給10か月分以上となるケースも少なくありません。
D.労働法違反を防止するための対策
(1) 労働法の基本ルールを正しく理解する
・ベトナム労働法2019には日本語翻訳資料も存在します.
・特に、契約解除、解雇、懲戒に関する規定は重点的に確認することが重要です。
(2) 社内文書(内部規程)の整備
以下の書類は整備しておく必要があるでしょうか?
・社内労働規則(勤務時間、年次有給休暇、機密情報管理・守秘義務、評価制度等)
・労働活動に関する議事録
・労働契約書、警告書(始末書)、警告記録
・労働契約解除時の事前通知書
日常的な社内活動については、原則として文書化することが望ましいとされています。
しかし実際には、「手間がかかる」「厄介である」と感じる経営者も少なくありません。
ただし、後日の労働紛争や税務調査の際には、文書の有無が大きな影響を及ぼします。
そのため、リスク管理の観点から、「文書化」を社内文化として定着させることが重要です。
特に、以下の書類については、確実に作成・保管することが求められます。
・会議の議事録
・社員に対する警告書
・労働契約解除時の事前通知書
・その他関連書類
多くの企業では、書面化を「手間がかかる」と感じがちですが、労働紛争の予防および企業防衛の観点からは極めて重要です。
そのため、「念のため」という意識で、簡易な形式であっても文書を残すことが強く推奨されます。
(4) 事務所内へのカメラ設置
事務所内にカメラを設置すると、「社員を信用していないと思われるのではないか」と懸念される経営者の方もいらっしゃるかと思いますが、リスク管理の観点からは「念のため」設置することを検討する価値があります。
なぜなら、ベトナムでは社内不正(会社財産の持ち出し、金銭の横領など)が発生するケースも少なくありません。実際に不正が疑われても、十分な証拠がないために、会社側が訴訟を起こせない、あるいは解雇が認められないという事例もあります。
カメラの設置は、社外防犯だけでなく、社内不正の防止や抑止にも効果があります。また、従業員から会社が訴えられた場合でも、書面上の不備を補う証拠として、カメラ映像があれば、裁判において会社側の主張を裏付けることが可能になります。
裁判所では、主張を立証するための証拠が不可欠であるため、事務所内へのカメラ設置は有効なリスク管理手段の一つと言えます。
カメラ設置により、以下の効果が期待できます。
・社内不正の抑止
・会社が訴えられた際の有力な証拠としての活用
F.ベトナム労働法の特徴
1.証拠主義:口頭説明よりも、書面や記録が重視されます。
2.裁判所の紛争処理期間:おおむね1年以上(3~4年を要するケースもあります)
3.和解重視:原則として和解手続きを経ることが求められます。和解では、両側のお互いの和解や調整が求められます。
4.総合判断:裁判所はすべての証拠を精査したうえで判決を下します。基本的に時間かかりますが、かなり公正の高い判決がされます。
5.労働紛争の提訴有効期限:ベトナムのベトナム民事訴訟法の規定によると、労働違反を気付いてから、1年以内訴訟が可能、この時間が経過した後に、被告者からの要求がある場合、裁判所が受理停止をすることが可能です。
ですから、社員の紛争を防止するための書類は少なくとも1年で保管する必要があります。しかし、税務・会計証拠として10年程度保管することが必要でしょうか。

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